轟天号/試運転解説
轟天号のプラモは、現在ではフジミの1/700のモノが、入手し易く手ごろでプロポーションもよく、可動ギミックも有りで素組でもかなりの完成度が得られ、選択パーツも豊富で製作方法の発展性まで充実していて文句無しの決定版モデルと、言えると云えば言えますが、でも違うんです!この今回のジオラマで作成した場面は映画「海底軍艦」より、轟天号が試運転で海中から姿を現し、空中へ飛翔するシーンを再現したものです。「海底軍艦」の中で使われた轟天号のミニチュアは大小4種類あったそ うですが、その種類によって細部はもとより全体のプロポーションまで微妙な違いがあります。そしてこの試運転のシーンに浮上してくる轟天号はフジミのモデルとは明らかに違うカタチをしているように私は思うのです。どーゆーことかと申しますと、フジミの轟天はとてもスマートでカッコイイのですが、このシーンの轟天はもっとずんぐりしているように私は見えるのです。それは今回の作品で使用した1/800オオタキの轟天号のようにであります。発売当時の値段がフジミの1/5程度の500円と、とってもお手頃価格なのはいいのですが、内容も1/5くらいなので製作には5倍の手間が掛かりました。ただこのオオタキの轟天号は可動ギミックはありませんがディスプレイに徹した作りで、なんと組立説明 書の最終行程には本体とディスプレイ用スタンドを「接着する」と指示があります。 恐れ入りました。では製作過程です。まずドリルですが、ただの階段状になっていてこれじゃ掘れないだろって形態になっているのでディティールアップ。エバーグリーンの細切りプラ版を巻き付け、一度ポリパテで段差を埋めて円錐を削り出した後、凹部を 彫り込んで丸ノミでえぐったような凹ラインを再現。フジミのスタンダード版のドリルは円錐に帯が巻き付いたような表現になっていますが、あれもちょっと違う気がします。ドリル先っちょのハンマーは先端が垂直に落ちていて実際と違うので鋭角に切り込み、冷線砲の発射口を開口。艦橋はフジミのとはまるで違いますが、普通はもっと幅太な艦橋もこのシーンのヤツは縦長くて全体の形状はこっちが近いのです。ただ細部はデタラメで横の潜舵が下側に折畳むような作りになっていて、(実際は上に畳 まれます)艦橋側面にその潜舵が畳まれて収まる凹モールドが掘られていたりします。 デッキも省略されていてマスト類は5本のところが3本しかないのでそれぞれを修正、 梯子も左右2箇所ずつ付け直しています。写真では小さすぎて分からないでしょうが 探照灯も付けました。電子砲はとてもシンプルな作りで、ドームに棒が3本刺さって いるという程度の出来でした。2本のつんつん(測距装置?)を自作して砲身中央部の透明部分をリキテックスのクリアメディウムで再現しましたが、多分写真ではお解り頂けないでしょう。この砲塔が比率的にひとまわり大きいのですが、艦橋周りが勇ましくなって雰囲気がよかったのでそのままの大きさで作成しました。次にその艦橋とドリルの間にあるカッターですが、このオオタキのモデルは小松崎先生のデザイン画にある固定式カッターを採用しています。映画では回転ノコでフジミモデルではそれを再現していますが、わざわざフジミの回転ノコを切り抜いて固定カッター式に改造 するマニアも多く、なによりフジミのスタンダード版轟天号の箱絵は上部のみこのカッ ターで描かれています。故にそのままカッター式で作成しました。オオタキのモデルを用いてこのフジミの箱絵の場面を再現した訳でもあります。次に船体ですがこれは舷側の構造そのものが違うので諦めましたが、キールまで省略されていたので細切りプラ版で自作。ただ船体から滴り落ちる水で舷側共々ほとんど見えなくなっています。 注排水口は位置も数も違いますが、始めから開口されているためこれを活かし、1個 1個の口から排水させ、下段の排水口からはフジミ箱絵のように勢い良く排水させて ます。艦尾エンジン噴射口は、撮影モデルの種類によって配置が異なります。この部分は劇中では3度程しか映りませんが、発進シーンのドック内で見える時は□型配置。 ムー帝国から高島忠夫達を救出した後浮上するシーンでは、私が持ってるLDでは暗くて良く見えませんけど、ほぼ中央部から横並びに水がこぼれ落ちてるので◇型配置ではないかと思うのですが断定はできません。1mサイズのミニチュアがこの◇型配置になっていたそうです。そしてムー帝国の動力源へ向かって地中に潜っていくシーンで見える時は再び□型配置に戻ります。 これは用途に合わせてノズルが回転するしくみになっているのでしょう。(違うけどな)作品では□型配置にしております。キットのノズルは8個もあって目が回りそうなのでもちろん改造したものです。「エンジンノズルからこんなに水がでていーのかよ!」と自分でも突っ込みたくなるぐらい水が吹き出しているので良く分からな くなってしまいました。この滝のように吹き出している水ですが、先に述べたムー帝 国から救出後浮上するシーンでホントに滝のようにたっぷり水を吐き出すのです。おそらく迅速にタンク内の水を排出出来るよう、エンジン系統へ排水ラインが通って強 制的に排水するものと思われます。マイティ号の浮上シーンなんかでもそうですが、 艦載機射出口やら魚雷発射管やら穴と云う穴から水を出しまくっています。やはり海 中から素早く空中へ飛び上がる為にはこのような排水システムが欠かせないようです。 甲板にも手を入れましたし、本体パーツの分割位置が吃水線になるような作りになっていますけどこれは違うので継ぎ目を埋めて分け目を修正しました。(ここはフジミも同 じような間違いになっています)塗装も黒下地にエアブラシで仕上げ、とにかく手間が掛かりましたがこの辺は「水」で見えなくなっています。この「水」、激しく吹き出してるのは轟天号が勢いよく浮上して海面で一時停止せずそのまま空中へ離水するからです。(映画の画面で観る限り私にはそう見えます)浮き上がる瞬間はカットが変り次に轟天号が映った時はもう空中に浮いてしまっているのですが、浮かび上がってきた時吃水線をはるかに上回る位置まで一気に浮いています。そこで強制的にタンク内の水も一瞬で排出、垂直エン ジンで強引に飛び上がるのです。このモデルはそのちょっと画面が途切れた瞬間を再現したものであります。垂直エンジンからの噴射で本体を支えています。劇中では噴 射は白色でしたが、フジミの箱絵に合わせてクリアオレンジをエアブラシで吹き付けました。しかしこれも「水」で見えなくなっちゃいました。余談になりますがこのオ オタキの轟天号の箱には轟天号の性能等を簡単に紹介したコメントが書かれておりま して、これを読んで私も初めて知ったのですが、なんと轟天号は地中だけではなく地上走行も出来るのです。その速度時速300km!150mの巨体が地上をF1マシン 並の速度で突っ走る様はさぞや豪快なものでしょう。さすが大日本帝国海軍。これさえ終戦前に完成していればあの広大なアメリカ大陸もあっというまにドリルの餌食になっていたはずです。ドリルと云えば撮影時、回転するドリルが地面に刺さった途端ドリルの回転が止まり、轟天号の本体の方が回り出すというアクシデントに見回れたそうです。劇中ムー帝国の動力炉に向かうシーンで、地面に刺さるところから轟天号が完全に地中に没するまでを1ショットで見せているシーンがあり、さすが日本の特撮と思って感心していたのですが、良く見ると途中でオーバーラップして繋いで、編集していました。 おそらく途中まで艦尾を押さえながら潜らせ、後半は艦首を掴んで引っ張って撮影したのではないかと私は推察します。特撮ってやっぱ模型を使って撮ってる方が観てて面白いと思います。「ローレライ」とか実物大セットはいいけど、CGの質感はシャバゾー、「これアニメかよ!?」とか思っちゃいます。例えピアノ線が見えても 撮影の苦労も見えるのがアナログ特撮の良さだなんて云ってる私は、時代について行けないおやじでしょうか。そんな思いもこめた、「ミニチュア特撮の静止画」というコンセプトでこの作品を製作致しました。ベースのサイズは約31cm×約21cm。小さな東宝マシンクロニクルの轟天号は大きさとプロポーションの比較用に撮影しました。と云う訳で、かなりの手を掛けて改造しておりますが、ここまでしてでもオオタキのモデルを使ったのはやはり全体のずんぐりプロポーションがこっちの方が「試運転」のシーンに登場する轟天号に近いからです。このずんぐりしたプロ ポーションは、神宮寺大佐の体型と相通ずるものがあり、私この場面の轟天号を神宮寺バージョンと呼んでおります。普通の方には何がなんだか判らない変なこだわりの固まりのようなものでございます。

inserted by FC2 system